2002年11月10日 学連の人々(15)

   今、このページの記述のために、月刊ボディビルディング1988年1月号を見ている。表紙はゴールズジムのタンクトップ(Tシャツを自分で切って加工したもののように見える)に黒のスパッツで、スプレッドをとる小沼さんだ。この当時月刊ボディビルディングは「電車の中で見れる表紙」をキャッチフレーズにしていた。「学生ボディビル大会特集」「石村勝巳の’87ユニバース・レポート」とある。同誌が学生大会をトップ記事にすることなど現在では考えられないが、この当時は学連に勢いがあったし、Mr.日本は別冊扱いだったから、記事が必要だったのだろう。ちなみに「Bodybuildeing & Powerlifting」と英題がつけてある。
  記事は他にMr.日本、Ms.日本選手寸評や各地のコンテストレポートがある。ミスター中野コンテストのレポートが載っており、森信誉司選手が優勝となっていて写真も載っている。髪の毛があるのと、紙質が悪くて不鮮明なために、まるっきり別人のようだ。
  だが、なんと言っても面白いのは広告である。今はなき田崎製作所の広告は懐かしい。ずいぶんと値付けが乱暴だ。スクワットラック(パワーラックだな、これは)18万円なのに、ウェイトスタック式のラットマシンが26万円、サイドクロスマシン(ケーブル・クロス・マシン)が28万円になっている。なんと、アダクター(26万円)まである。「家庭に1台、健康・美容づくりにアイアン・レディ新発売」これはラバー式のベンチであるが、売れたのかな、コレ。そして、あの「TAZAKIビルタミン・プロテイン」997g、送料共5千円。どう見てもアーノルドとしか見えない絵が描いてあるけど、そんなことして大丈夫?
  サプリメントでは、チャンピオン・ニュートリションやツイン・ラブの製品が既に売られている。それにしても、目の玉飛び出るほど高い。100%牛肉プロテイン、新製品内蔵エキス配合280gで1万2千円!チャンピオン・ニュートリション、メタボロール、908gで2万9千円!!!
  値段もオドロキだけど、UNIPRO社のクレアチン1500、90粒入り9,500円!メーカー不明GHレリーサー、パウダー100g、4,000円!!!こんなものも当時から国内で手に入ったんだなあ。中身がどうだったかはともかくとして。

  この年は東日本大会と全日本大会の間が3週間あいていた。会場は大阪である。例年2、3週間あくのだが、この間どうこうしようと思っても、結果的にはできなかった。東日本大会では、とくに大腿四頭筋にストリエイションがでるほどには絞れていなかったので、それを何とかしようと思うのだが、やっぱりできなかった。今から思えば、やり方の方向性が間違っていたのだと思う。大腿四頭筋自体、それほど優れていたわけでもない。とりあえずは、テンションを維持して全日本大会に行けただけで良しとするべきだろう。
  部室で練習していると、驚天動地の情報が入った。西日本大会で、昨年全日本2位の牧志君が敗れて3位にとどまったというのである。しかも、本人が結果に納得しているという。彼が負けたということよりも、負かした選手がいるということの方が衝撃的だった。その選手は、当日の体重が70kgあったという。
「でも、身長は2m30。」
「ただの病人やんか。」
などと、例によって緊張感のない我が部室では尾鰭をつけてるんだか、馬鹿にしてるんだか分らない話になっていた。
  3位という順位も問題だった。優勝した選手と牧志君の他に2位がいるわけだ。このときの想像では、おそらく牧志君と優勝した選手が優勝争いをして、結果として第3の選手が2位に滑り込んだのだろう、ボディビルのコンテストでは良くあることだ、と思っていた。しかし、それでも昨年とはレベルが違うということは間違いなかった。
  大阪には私と同期で主将の内川君、学連理事の西形君の3人で向かった。関西で行われる全日本大会は自主応援と決まっているので、他に応援に来た部員はいなかったようだ。写真係の津島君も来ないので、このときの写真はない。
  このとき初めて東海道新幹線に乗った。富士山を見たのも初めてである。4年間東京に住んでいたが、東京タワーを見たのもこのときだけだ。この当時の東北新幹線は上野止まりで、都内に入ると途中から地下に潜る。都会の中の高架の上を弾丸列車が走るという情景ではない。だから、新大阪に近づいたとき、田舎者の私は感動した。
  ホテルはシングルをあてがわれた。この当時、JBBFでは2段ベッドの宿舎を用意していたという話(「ボクの履歴書」参照)だから、破格の扱いか。高速道路の高架に近いビジネスホテルだったと記憶している。やたら喧しくて、暑かった。前夜はいつも眠れないのだから、それで問題あるわけではないし、暑ければそれだけ水も抜けるし。